Emmausブログ

人は見ね/人こそ知らね/ありなしの/われは匂ひぞ/風のもて来し

あなたはあなた、それでいい。

Emmaus2005-07-26

The important book

世にある児童書。子供向けなのにその実、大人に受けているという類の本。「だがなぁ 何ともビミョウだな」とボクは思う。どこかで大人が失ってしまったものってある。子供の時の郷愁、それってただ今の大人の慰みのような気がする。それはそれでいいのかも知れない。でもその児童書って、実際子供にとってはどうなのか。汚れ(けがれ)のないウツクシイお話し。心温まる物語。それもいいのだけれど。でもその本を手に持ちながら、片方では子供はテレビのリモコンのボタンを押すのに余念がない。それはそれで子どもにとってはワクワクすることなのだ。それはそれで好しとしなければいけない。私たち大人の郷愁を子供におしつけては・・・よくない。

Margaret Wise Brownが書く子供のための本。私は好きだ。読者対象が4歳から8歳だ。タイトルは「The important book」。冒頭から何気なくはじまる〈大切な〉ことの話。

The important thing about a spoon is that you eat with it.
It's like a little shovel, You hold it in your hand,
You can put it in your mouth, It isn't flat, It's hollow,
And it spoons things up.
But the important thing about a spoon is that you eat with it.

【訳】スプーンについて〈大切な〉こと。それはきみがそれで食べるということ。
スプーンは小さめのシャベルみたいで、きみは自分の手でそれを握る。
きみはそれを口に入れることだって出来るんだ。スプーンは平たくないし、へこんでいるんだもん。
でもってそれですくい上げるのさ。
でもね、スプーンにとってだいじなことって、きみがそれで食べるってことなんだよ。

これって面白い?ううん、当たり前すぎてねむいよと子供は言うにちがいないかも。今時のココロときめく箒に乗って駆けめぐる痛快大スペクタクルのワクワク感はないんだから。でもそんな味気ない日常でもためらいなくスペクタクルでないことを作者は語り続けるのだ。
子供のまわりにごくふつうにあるもの、見えるもの。それを「これはね、それは・・・」と語る。「もの」のどこが〈大事な・大切な〉ことを、素直に子供のからだに感じるものの色やかたちやでその「もの」をていねいに語りかける。これを作者は「important」という言葉を使って何気なく語りかける。あえて付け加えればということになる。
題材(お題目)はスプーンに続き、デイジーについて、雨について、草について語っていく。
spoon, daisy, rain, grass, snow, apple, wind, sky, shoe,,you

それに中表紙にcricket,glass 12のことがら。

うん。みんなのまわりにあるごくふつうのもの。

spoon=eat daisy=white rain=wet grass=green

snow=white apple=round wind=blow sky=there shoe=put in。

「もの」を大人の感じるファンタジーでなく、おとぎ話ではなく、「もの」を子供がかんじる日常の感覚としてあたたかく語る。いたずらに欲望を開き刺激し奮い立たせることはない。そのことが子供たちと同じの、子供たちの背丈の高さで物の中心に近づけさせる。いつのまにか、子供の目は輝く好奇心でいっぱいになるのだ。子供と日常のふつうの「もの」が平らななかで親しくなる。その安心のなかでMargaret Wise Brownは語りかける。ゆっくりと子供の〈うちがわが〉が呼び覚まされるのだ。子供の心は開き、子供のなかの《自分》と子供が握手する。子供と「もの」とが握手する。ほんのりとした健やかさに満たされていく。

教育というものなど私にはむずかし過ぎるし、よくわからない。でもこんなことが言えないだろうか。子供のことは子供のことを語るだけでは語ることにはならない。大人の目線を子供の目線に意訳して語るのではほんとうのことは伝わらないのではないか。お子様ランチがいいのだったり悪いと言っているのではない。本物の大人のものを与えることでもない。上からのものを下に与えることではない。子供と大人が一体となることでも出来ない。先ずは日常のふつうのなかでふつうの「もの」を通して私たち大人が子供と平らな形であることが大切だ。

The important bookの子供に向けて最後に結んでいる。

The important thing about you is that you are you.
It is true that you were a baby, and you grew,
and now you are a child,
and you will grow,
into a man,
or into a woman.

But the important thing about you is that you are you.

【訳】
あなたとってたいせつなことはあなたがあなたであることよ
きみが赤ちゃんだった。そして、育った。それはほんとうだ。
そして、今きみは子供なんだ。
そして、これからも大きくなっていく。
みんなの中で、
でもね あなたとってだいじなことはあなたがあなたであることよ。

この真剣でどこか優しい眼差しは子供の心を離さない。私は作者に替わってこう言おう。子供はもうどこかで大丈夫だと。たしかに私たちの保護にはあっても健やかにノビノビと育っていくと。もう子供は自分で優しくお話しができるだろうと。

もしわたしにとってわたしがわたしでないことだったら・・それはどういうことなの?つまり、今わたしはわたしでいるのだろうか?って。
また 、わたしは赤ちゃんだったって? それって何?わたし大きくなったの?。つまり 赤ちゃんであるってことは何?大きくなるってどういうこと?
でもまだ子供わたし。それって何? これからまだ大きくなる。おとなの中でそれって何? もし大人の中で自分たちが子供ではありえないとしたら。つまり、わたしたち子供は大人の何?大人は子供にとって何?
わたしがわたしであるということが大切だということを。自分ってなんだろう?・・・と。知るだろう。

これは大人のあたまの痛い哲学的命題の話ではない。

子供は デイジーや草や空や雨や靴を安心しながら考えながら あなたはあなたなのよ、「ここに居ていい」という安心を与える。

わたしはわたしでいい。あなたはあなた。子供も私たち大人もそう思っている。そうありたいと思っている。
But the important thing about you is that you are you.

子供の目は好奇心でいっぱい輝いている。あなたの目で子供らの目をもう一度よく見てみよう。そして私たち大人もそれがとってもいいことだと分るはずだ。
Margaret Wise Brownは子供に日常をただのふつうに語り、大切なことをたいせつなこととして語る。まっすぐなところに子供と私たちがいる。子供と大人の私たちが、平らなふつうのなかで、いろんなものとやさしく親しくなって握手することは、とってもたいせつなことではないだろうか。わたしがわたしである平静を、わたしたちにわかりやすく伝えている。「ここにいていい」という安心の「The important book」を添えて・・・。安易な自己実現ではないわたしたちが示されている。