茨木のり子
茨木のり子が一人ひっそり亡くなられた。
かつて生意気で、無知で甘えきったばかものの俺に、鋭く衝きつけられた切り出しナイフのような優しい豊かな言葉たち。「なにするんだぃ」と俺。だが喉元に丁寧に当てられて身を仰け反った17歳の夏。「おい若僧、本気なのか?」。「うん」。そんなふうに金子光晴詩集に出会った。その解説で茨木のり子という詩人を知ったのだった。あれは弥生書房だったか、もう散逸してしまった。その茨木のり子は現代詩の長女であり、またそう思ってはじめて「言葉」を信じたあの頃。もうぼろぼろだと勝手に思っていたおのれがそれにまた身勝手に安堵したかは覚えていない。ただしがみついていたのだろう、行方も知れぬ漂うブイに揺られ。常にどこかで遠くで彼女を見てきた。おのれの場所を知る灯台の明かりだったのか。いつのまにか若い日の瘡蓋もとれていた。そのばかものの俺もあれから40年生きてきたことになる。いやはやなんもかわってない。ばかものである。だがあの方はやはりきっぱりといかなるものにも倚りかからずに、やはりあの方であった。79歳であの光(みつ)爺っさまのところに逝ってしまわれた。韓国現代詩の紹介や訳にも尽力された。追詩追想・・・。衷心から祈りを献げたい。暫しその意味を汲んでみた。おぃ!しっかりせねば・・・まだくたばるわけにはいかないぞ。
「詩のこころを読む」の冒頭にこうある。
心の底深くに沈み、ふくいくとした香気を保ち、私を幾重にも豊かにしつづけくれた詩よ、出てこい!と呪文をかけますと、真っ先に浮かび上がってきた
これらの詩たちを
ためつすがめつ眺めてみよう、なぜ好きか、なぜ良いか、なぜ私のたからものなのか、それをできるかぎり検証してみよう よってきたるところを、情熱をもって語ろう・・・。
おお!あいらしく強く寡黙な「情熱」という言葉よ。
- 作者: 茨木のり子
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かつて、山本安英との出会いにおいて次のような初々しい詩を書いた。
- 汲む―Y・Yに― 鎮魂歌 1965年 思潮社
- 作者: 茨木のり子
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