Emmausブログ

人は見ね/人こそ知らね/ありなしの/われは匂ひぞ/風のもて来し

一番分らないこと・自分

確かに疎ましい自分といふものも正直あるのだらう。「もう少しどうにかならんかな」と吹けば飛ぶやうな小さな小さな商ひを長年遣つて来た。いつも問題山積。上の会社からは叩かれ、下からは突き上げられる日々。「何ともならん」。だから素直だつた臍まで曲がり曲がつてついには元の真つ直ぐな臍になつた(へそ?)。いつのまにか叩かれつよくもなり突き上げもうまくかわす術をも身につけてゐる。馬耳東風。でも面の皮が厚くなつただけ。中身はなんもかわつて居ない。
でボクにはある癖が身に付いてる。仕事でトラブルが続出してピークに達する。問題処理はそれはそれとして行ふけど。やり場の無い情動?がこみ上げる。そんな時ボクは当たる?ものがないから、狭いアトリエ事務所の掃除を急にはじめる。トイレから水回りまでゴシゴシと。ついでに要らないもの(と本人は思ふけど)を捨てる。どんどんと。実に気持ちがいいのだ。中には取引先の見積もりやデザイン画も整理したこともあつた。だからスタッフももう熟知してゐて一斉にそれなりのものを何処かに仕舞ひだす。ボクの眼の届く処からものを無くす。どつちが早いかだ。暫くして、もやもやいらいらが収まつて一息着く。すると、さつき大切に仕舞つたものをスタッフが恭しく何処からか出してくる。年に何度かの業務風景になつてゐる。実に厄介な自分である。何てことはない男ヒステリー。スタッフもいい迷惑だがきれいになるから文句は言わない。まあせうがないのだらう。家のカジンはこのことは矢張りボクの病気だと思ふやうで、掃除だから無下に止めることもないとある時云つたのを思ひ出した。今も訝しくはないと考えて居てまた同じく全く意に介さない。

自分のことぐらい一番分らないことはない。このことだけは確かである。訝しくはないからだからとても可笑しい。。。

そのやうにいろんなことあつて、先だつてのことだった。いつものやうに仕事帰りにふらりとプールに寄つた。帰りついでにフロントで偶然にもスイミング教室の世話役と思しき方との立ち話。

  • 「最近調子はどうです?」
    • 「え?泳ぎよく分からなくて。最近。」 (仕事のことが頭に過ぎるも違ふことが口から出るもんだ)
  • 「て云ひますと。何か。」
    • 「クロール。何だか自分のキャッチ点(手を入水するところ)がどうなつてゐるのか。」
  • 「それは、意識的に先でキャッチして、少し手を預けるといいですよ。」
    • 「かうですか(手真似)。さて。実際これで自分のかたち、どふなつてゐるのやら。」
  • 「ですね。肝心の自分のが一番分りません。そのくせ人のはよく見えるんですがね。ハハハぁ」
    • 「なるほど。では教室に入つて一度じつくり見てもらいますか。」
  • 「おもしろいことに、それがどんなに注意されて分つたつもりでも、後で云はれてもやつているその時は分りませんもの。」

どうやら先方も五十半ば過ぎだらう。人生の山坂を登り下りどこか深く思ひあたる節があるのかしら。ごま塩混じりの短髪の先方を見て〈イハズモガナ〉と思はず苦笑した。いい皺をしてゐる。今更泳ぎを上手にならふ思ひもしないが、ともかく泳ぎタイムが今楽しみになつてゐる。分らないまま〈私〉を更新継続してゐる。それつ!!事務所の掃除も最近やらなくなつてゐる。何をか云わん哉。キヨさん聞ひてるか!? 善哉善哉。