Emmausブログ

人は見ね/人こそ知らね/ありなしの/われは匂ひぞ/風のもて来し

一つを思う・ある断崖に居る

丁度五日前の二月二日が満月だったろうか。土星が月の脇に並んで見えていた。次第と二つは日を追う毎に隔たりを遠くしていった。更に澄みわたった夜空に冬の大三角形は今夜も月の余りの明るさにその形を淡くしている。ただオリオンだけは輝きをたもっている。
なぜか一つのことにずっと思いを巡らしていた。感情より人はより行動を好むというが、一日を終えて星空にオリオンの輝きがどこにいてもふと眺められるのは心底よい。さまざまな星に眼を移して急きつ駆けめぐってみても、その前とでは何も深い思いに至らない。もっと落ち着いて一つの星に立ち止まりその後全体を見渡していると、ある夜空の「涯・かぎり」を一目で掌握出来て、気持ちは穏やかに和んでゆく。観ることの豊かさ。観ることの豊かさとは、詳細を一つひとつ経り巡り私の想像をなくしていくことだ。それがその様態の位相の際どさとともにわたしに確かなものを与えてくれる。人は深淵の前に立つと恐れと不安を懐くというが、より確かなものが私の内にあれば欲望も悔恨も消え去ってゆき一つの「断崖」に居る心地よささえ満喫させてくれる。これこそ「美しい断崖」だったのかと気持ちが高まるのを覚えた。あまり思いに入ると確かさも危うくなろう。漸くして家に入ろうとして振り返ると北のステラが地上の際に明るく光っていた。一つのことが「充ちる」のをそっと私の中に収めた。


      生涯にこの星の夜ありやこの二月