ジョーン・ブリヤンの色
描くことに新しさはいらない
ホルペインのケーキカラーの滲みは悪くない
生めかしい風も描きませう
事件(こと)は誰も分からぬ処で起こるのではない
しかし誰も分からずに起きないと言えるだろうか
注文を云い寄る店員に催促され
たのんじまったコーラ
スモークグリーンの瓶のなんと美しいことでしょう
チェスゲームのボクらの熱さを少しなだめてくれる
きみの黒い睫毛の端に〈あるもの〉が
そっと止まっていることさえある
あるいは〈あるもの〉が時のしじまを見つめていることさえある
すっかり煙草のヤニで
指の爪も黄色になっている
そこにジョーン・ブリヤンの顔料を少し
ジョーン・ブリヤンをして色その色たらしめるもの
春の午後を辛抱強く堪えるのもまんざらでもありません
ボクらにとってこれに 替わるものは他にないのなら
出来る事からやればいい
もうひとつコーラのお代をしょうと手を振った
乙に澄ましていたあの店員はきっとしたり顔でやってくるにちがいない