emmaus.hatenablog.jp

“だれ一人自分のためにだけ生きる人はいない”

与えられたもの

開け放った店の扉から遠くの街のざわめきを風が路地裏の澱んだ匂いともに運んでくる。日の落ちるのが早くなった。天井の暗がりが空にもつながるのか小さな店に似合いの裸電球がゆるやかに照らしている。長めの厚いカウンターは糠で磨きあげられているのだろう、鈍い光にほっとする。まだ客は誰も来ず店の奥では仕込みの鍋から湯気があがっている。グラスを置くと水の雫のようにコツっと響いた。レジの隅にホトトギスの一輪挿しをみつけた。主人の好みなのだろう。なるほどと花のことを思った。誤解や誤読等々。

一つひとつの感覚がばらばらのようで、よく見ると時の流れとあらゆる方向へ広がるスペースをそこに保っている。不可分な相関するところに裂け目が生じ、誰が与えるでもなくいくつもの見えない深い息のある動線の意味が与えられる。遠くの電車の行き交う音。自転車のブレーキがキーキーとなって「やあ遅れました」と待ち人が汗を拭きふきやってきた。