Emmausブログ

人は見ね/人こそ知らね/ありなしの/われは匂ひぞ/風のもて来し

そうだった、ぼくはすでに砂と星とのあいだには宿っていなかった。ぼくはすでにこの周囲の眺望からは、冷たい伝言しか受けとらなかった。先にぼくがこの眺望から由ってきたものと信じた永遠に対する憧れも、ぼくはいまその由ってくるところを見いだしていた。・・・
そうだ!ぼくはあなたのために、せめて一ページは書く義務がある・・・
・・・ぼくは自分の中に何ものが起こりつつあるか知らない。多くの星々に磁力があるにもかかわらず、このけだるさが地を結びつけている。別のけだるさが、ぼくを自分自身へと連れ戻す。ぼくは自分の体を多くのものの方へひきつける自分の重量を感じている! ぼくはあの夢想のほうが、あの砂丘より、あの月より、ここにある諸々の存在より、いっそう現実だ。ああ! 家のありがたさは、それらがぼくらを宿し、ぼくらを暖めてくれるためでもなければ、またその所有だかでもなく、いつか知らないあいだに、ぼくらの心の中に、おびただしいやさしい気持ちを蓄積しておいてくれるがためだ。人の心の底に、泉の水のように夢を生み出してくれる、あの人知れぬ魂を作ってくれるがためだ。・・・

サン=テグジュペリ 「人間の土地」より