亡羊記・トレイル・ラン
妹が逝ってしまって五日目の夕。
夜勤明け、わたしは
川沿いの18キロのトレイル・ランに出た。
きーんと張りつめた
こがね色の大空を、
聴いている。きいている。
そのわたくしの裡に
<大きな森の夜の背後>が聞こえた。
鹿は 森のはずれの
夕日の中にじっと立っていた
彼は知っていた
小さな額が狙われているのを
けれども 彼に
どうすることが出来ただろう
彼はすんなり立って
村の方を見ていた
生きる時間が黄金のように光る
彼の棲家である
大きな森の夜を背景にして
〜村野四郎「亡羊記」〜