Emmausブログ

人は見ね/人こそ知らね/ありなしの/われは匂ひぞ/風のもて来し

書き損じた一枚の絵葉書

あるはずの夏服が見あたらない。去年も探せなかった。
止むなく部屋の天袋をあさっていると、古い大きな旅行鞄の中から書き損じた一枚の絵葉書が出てきた。フィレンツェのアルノ川の絵葉書で、生前の父と母に出そうとしたものだ。“元気です、暑いです。明日はウフィツ美術館です”とだけ書いている。ずいぶんつっけんどんな物言いだ。日付が1983年5月とある。30を過ぎた頃だ。若くて硬質な字が信じ難く可笑しい。
この葉書を処分しようとしたが捨てずに鞄に再び締まった。
肝心の夏服は分からないまま夕方になったので諦めた。何か「儲けた」ような一日となった。