Emmausブログ

人は見ね/人こそ知らね/ありなしの/われは匂ひぞ/風のもて来し

夜の白むのが遅くなりはじめた八月の頃に

私鉄が乗り入れしている駅がある。早めの仕事の朝、始発から二番目の電車でその駅に着く頃には、2つ向こうのホームの先端にきまって一人の乗務員が立っている。その情景をもう三年も見続けてきたことになる。交替勤務の電車の到着のきまりだろう、どの時も同じで体を斜め後方に向けて黄色の線から半歩下がって立っている。ある時彼の左手に持つ鞄の縁がさざ波のようにキラリキラリと光ったことがあった。以来この男を<島の男>と呼ぶことにした。アリステア・マクラウドの短編の「島」の印象からだ。小説の主人公は女だったが、何故かそれがつよくダブった。処暑を迎えた昨日、この風景はこの男が確実に「ものにした」ものだと納得した。青年が老成した人のように。「若くして願ったものは確かに老成して手中にする」という言葉を思い出したからだ。


冬の犬 (新潮クレスト・ブックス)

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