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“だれ一人自分のためにだけ生きている人はいない”

くろとメリーとラリーのこと

さまざまなものは変わってゆくが、いくつになっても時おり思い出すのは、ウチにいた犬のくろとメリーとラリーのこと。

くろは、幼い頃のぼくのともだち、茣蓙を敷いた日向でよくいっしょに寝た雑魚寝の友。毛足の短い真っ黒の雑種。ぼくが生まれる前からすでにウチいたという。ならば父と母がまだ20代だったわけだ。年からすると年長のともだちということになるが、どこに行くにもくろがいた。

メリーは、ぼくが中ニの時、生まれてすぐウチに来てなくなるまでいたダックスフンド。英国ザケネルクラブ血統書の折り紙つき。気位の高かったわりには内弁慶だった。ぼくはそれが嫌いでみんながいないところでメリーを殴っていじめていた。ある時、彼女の瞳から涙がこぼれた。ぼくは息がとまりそうだった。ぼくも悲しくなって泣いた。するとメリーはぼくの目のまわりをぺろぺろなめた。あの夏ぼくは自分の暴力を誰にも言えずすっかりへこんでしまってメリーから離れた。立ち直ったのはメリーがさきだった。ぼくの布団に入ってきていびきをかいて寝ていたのだ。それ以来ぼくは彼女の手下になった。

ラリーはメリーの少し前からウチに来た大きなコリー種。とても元気で一度檻を超えて家出したことがあった。戻ってきた時はぜんぜん前と違うラリーになっていた。表情も雰囲気も違っていた。溌剌としたラリーではなかった。外でたいへんなことを経験したんだなとラリーと散歩する度に感じたのを今でも思い出す。

くろもメリーもラリーももういない。 いつだったか、知人から犬を譲りたいと話があった。結局その話はたち切れになった。また犬との生活があるかもしれない。あの頃よりぼくは少しはマシになったのだろうか。