隔たり・近さと親しさ
人は遠くにいても近さを感じることがあります。また、近くにいるのに隔たりを感じてしまうこともあります。
このコロナ禍でホームの利用者の方がご家族との面会が出来なくなっています。 そんな折り、認知症が進んだAさんにふとスタッフが声をかけました。
-「一郎さんとずっとあってない? 」
-「うん」
-「会いたい?」
-「会いたいけど、さびしくない」
-「さびしくないの?」
-「いつもいるから、さびしくない」
Aさんの頷きと瞳の輝きは確かなものだった。人との関わりと触れ合い、心の持ち様は実に深く、ふしぎです。
以前読んだ本を思い出しました。
when we are alone, we are only nearer to the absent. (Stevenson, Robert Louis)
これは、わたしの好きな作家、スティーヴンソンの紀行文『旅は驢馬をつれて』Travels with a Donkey in the Cévennes, 1879年の一節です。
この文を小沼丹は
僕たちは一人でいるときには、更に一層、離れているものに親近感を覚えるばかりです。
と訳しています。
かつて、吉田健一の訳したものがありますが、
我々が一人でいる時は、それだけそこにいない友達を身近に感じるのである。
やはり、小沼丹の訳に親しみと近さを感じてしまいます。
コロナ禍で、人の存在、他者の関わり。さまざまな事を知り学んだ時間です。